浪華・元禄文芸の風景
上田秋成の風景と物語

春雨物語の風景



一 血かたびら

  性格が善柔な平城天皇(桓武天皇の次)は自身の側近と皇太弟(嵯峨天皇)を押す勢力との対立に懊悩する。早く譲位したいと思っているのだが、側近はそれを拒んでいる。
 怪異が続いたので、ようやく譲位をはたし、奈良に居住することになる。側近は天皇への復位をもくろみ、反乱を企てたものの、仲成は斬首、薬子は自害、自らも剃髪した。

三輪山




清水寺

二 天津おとめ

   嵯峨天皇は儒教精神で治世を行い、この国を唐土のようになった。唐のものを尊び、王羲之の真筆と思って唐から購入して、空海に自慢したら、それは空海の習筆だったとか。
 次の淳和、仁明、文徳天皇の代には仏教が重視された。仁明天皇の寵臣良岑宗貞は色好みの男だったが、これを軽薄として憎む人もあり、仁明天皇の死後、朝堂から姿を消す。清水寺での小野小町との歌のやりとりがきっかけで、仁明皇太后に捜しだされ、朝廷に戻り、後には僧正の位にまで登る。これは仏教を信仰したおかげではなく、単なる幸運だった。



三 海賊

  紀貫之の『土佐日記』には、紀淡海峡付近の海賊をおそれて、必死で泉州にたどり着くとある。所が泉州にはいってホットしたとたん、海賊が小舟で乗り付けてくる。紀貫之と対面した海賊は『古今集』について、例えば恋いの歌が多すぎる、など一方的に批判を行って去っていく。また紀貫之帰京後も管相公論を投げ込んでいく。この海賊は放蕩乱行で朝廷を追われた文屋秋津であった。

沼島の岩神さん




古曽部?の道祖神

四 二世の縁

  山城の国古曾部(高槻市古曽部町)の富農が、庭の隅で鉦がなっているのに気付き、掘り出してみると、意外にも。禅定に入った男がミイラで出土、介抱で蘇生した。前世は高僧だった男はその面影は全くなく、やがて村のやもめと一緒になり、荷担ぎで世を渡った。この様子を見ていた人々は仏教を迷妄として捨てる者もあった。入定して蘇生したら最低の人間として生き返るということ。



五 目ひとつの神

  戦国時代に、相模の国に住む若者が堂上家の和歌の伝授を受けようとして、都に上がる途中、近江の老曽の森で野宿し一夜をあかそうとしている所に、目ひとつの神の一行が現れ、その無益さを諭されて、修験者に連れられて引き返すと云う物語である。

三上神社




本住吉神社

六 死首の咲顔

 摂津国兎原郡宇智弖の酒造家の五曽次の息子五蔵は、同族の元助の妹宗と恋仲になる。五曽次は結婚を許さず、宗は病にかかり、やがて危篤になる。五蔵は元助と相談して、宗に嫁入り支度をさせて我が家に迎える。五曽次は許さず、宗はせめて庭に入って死なんと云う。五蔵は宗の手をとって家を出ようとすると、元助は「汝はこの家にて死ぬべし。」と、宗の首を切り落としてしまった。



七 捨石丸

  みちのくの小田の長者は東国一の富豪であるが、一切を息子の小伝次に譲り、毎日捨石丸を相手に酒を飲んで暮らしていた。ある日、酔いのあまり、捨石丸に与えた名刀の取り合いになって、捨石丸が誤って自分の腕に傷をつけ、その血が長者にかかり、長者の下男は「捨石丸が長者を切った。」と騒ぎ立てた。翌朝、恐ろしさのあまり江戸に逃げた捨石丸は豊前の国守につれらて、その国に行く。酒毒のため腰抜けになってしまうが、一大決心をして青の洞門を貫通させる(隧道を掘る)事を始める。
 長者の息子は親の敵討ちを命じられて、ようやく捨石丸を見つけだしたが、その志を知り、協力することになった。
 なお、秋成の100年後に菊池寛がよく煮た『恩讐の彼方に』を書いたが、その時にはまだ『捨石丸』は発見されていなかった。素材は大分県下毛郡耶麻渓町の青の洞門を掘った真如善海。

青の洞門
 



生田の森

八 宮木の塚

   貴種に生まれ、絶世の美女である宮木は、貧困ゆえに乳母に騙されて神崎の遊女屋に売られた。河守十太と婚約していたいたが、駅長の横恋慕にあい、十太が毒殺されてしまった。そうして宮木を我が者にしてしまう。やがて、真相を知った宮木は法然上人に念仏を授けられ、入水自殺を遂げた。
 生田の森が宮木と十太の逢い引きの場所だったと云う。




九 歌のほまれ

 『万葉集』の歌、「和歌浦に潮満ち来ればかたおなみあし辺をさしてたづ鳴わたる」と云う赤人の歌がある。九一九。
 聖武天皇の歌、「妹に恋ふ あごの松原みわたせば潮干の潟にたづ啼わたる」一〇三〇。
 高市黒人の歌 「桜田へたづ鳴わたるあゆちがた潮ひのかたにたづなき渡る」二七一。
 読み人知らず 「難波かた潮干にたちてみわたせば淡路の島へたづ鳴わたる 一一六〇「
 赤人の歌が、これらに類似しているのは、昔の人は、思うがまま、素直に歌ったからで、これこそが誠の歌の道である。

和歌浦玉津島神社の歌碑




伯耆大山
 
10.樊[口會](はんかい:樊會と表記します。)

   伯耆は大山の麓に住む大力の大蔵は、家の金を盗み、父と兄を殺してしまう。逃亡中の博多で唐人が付けた樊會のあだ名を名乗り、盗人の一味に加わって悪事の限りを尽くす。ある時、(栃木県那須町の)殺生石で僧の金を奪うが、戻った僧は、出汁残したのは我ながら心清からずと、金を再び樊會に与えた。樊會は心改まり出家して、後には陸奥の寺の大和尚となり遷化した。




上田秋成 遊郭で誕生す

上田秋成 紙油商に養子に貰われる。

上田秋成 疱瘡を患い、直す。

上田秋成 文人として名をはせる。

上田秋成 雨月物語の風景。

上田秋成 春雨物語の風景。

上田秋成の風景と物語