万葉集巻第二紀の国

挽歌かなしみうた

後の崗本の宮に天の下知ろしめしし天皇[すめらみこと]の代[み]よ
有間皇子の自傷かなしみまして松が枝を結びたまへる御歌二首
 141 磐白乃 濱松之枝乎 引結 真幸有者 亦還見武
磐代の浜松が枝を引き結びま幸さきくあらばまた還り見む
磐代の浜の松の枝、結んどいたろ、運がええほう向いたら、帰りにもういっぺんめぇらいしょ
 

 142 家有者 笥尓盛飯乎 草枕旅尓之有者 椎之葉尓盛
家にあれば笥に盛る飯いひを草枕旅にしあれば椎の葉に盛る
あがとこやったら飯は笥に盛るんやして、そやけど、今旅やさけ、椎のはぁに盛るんよ
 

長忌寸意吉麻呂[ながのいみきおきまろ]が、結び松を見て哀咽[かなしみ]よめる歌二首
 143 磐代乃 崖之松枝 将結人者反而 復将見鴨
磐代の岸の松が枝結びけむ人は還りてまた見けむかも
磐代の岸にはえちゃーる松の枝をよ、結んらお人よ、帰って来て、もいっぺんめぇたんかいし
 

 144 磐代之 野中尓立有 結松情毛不解 古所念
磐代の野中に立てる結び松心も解けず古いにしへ思ほゆ
磐代の野っぱらのあの結び松の枝よ、ほれ見とったら、昔の事おもうて、気づつないわして
 

山上臣憶良が追ひて和[なぞら]ふる歌一首
 145 鳥翔成 有我欲比管 見良目杼母人社不知 松者知良武
鳥翔つばさ成す有りがよひつつ見らめども人こそ知らね松は知るらむ
羽のはえちゃある皇子の魂よ、この結び松、見に来たんかいし、人はあかな、松は知っちゃらいしょ
 

柿本朝臣人麿ノ歌集ニ云ク、大宝元年辛丑、紀伊国ニ幸セル時、結ビ松ヲ見テ作レル歌一首
 146 後将見跡 君之結有 磐代乃子松之宇礼乎 又将見香聞
後見むと君が結べる磐代の小松が末うれをまた見けむかも
後から見よとひて、おまんが結んだ磐代の小松の梢な、いかにおまん、見たんかいし

万葉集巻第三紀の国

万葉集紀の国

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