紀の国の民話・昔話・伝承 御坊市、日高郡編




御坊の大蛇退治



 むかしむかし(永禄年間のことと伝えられる)御坊の町はずれの熊野[ゆや]いうところに、大蛇が棲みついたんやと。
 そいつを見かけた人の話によると、でっかいやつで十メートル以上もあったそうな。
 そいで近所のイノシシやサル、それにニワトリなどを襲って、手当たり次第に食てまいよるんや。
 とうとう木こりさんや猟師らもおとろしがって、山へ行くのを止めてしまうよになった。
 大蛇は暴れ放題で、近所でも親孝行で知られていた市之丞ちゅう青年を襲うと、これもパクリとやってまいよった。
 さあ両親は嘆くし、村中大騒ぎになり、丁度村へきていた荒山三郎と荒木金吾ちゅう一芸者に、この大蛇退治を頼んだんやして。
 で、二人は承知して大工さんを呼ぶと、固いクリの木で、二.四メートルほどもある四角い鳥かカゴのようなものをつくらせ、一人がその中に入り、村人たちはいっせいに鐘や大鼓を打ち鳴らし、その大蛇を追い出しにかかったんやと。
 さすがの大蛇もびっくりして、山奥からはい出してきたが、クンクン、なにやら人間くさい匂いがしてくら。
 そいで近寄っていくと、うまそうな人間が、鳥カゴの中に入って、オイデオイデしてるんや。
 こりゃど馳走とばかりにその鳥カゴにグルグルと巻きついて、力いっばいにしめあげた。
 しかしさすがに固いクリの木やよって、ピリッともせえへん。
 その時、中の武芸者が、かくし持っていた大鎌を取り出し、鳥カゴのうちらから大蛇の胴体に引っかけ、エイッとかけ声をかけて全身の力をふりしぼって手もとへ引くと、大蛇はスパンと二つにチョンギレてしもた。
 大蛇は荒れ狂ったけど、体が二つに切られてはあとの祭りでどうもならんわ。
 そこへもう一人の武芸者や、村人たちも応援にかけつけ、とうとう大蛇をズタズタにしてしもたんやして。
 「こんな大きな柁のことや…夕タリがあったらどもならん、いっそ日高川の河原へ運んで焼いてしまおら」
 と話が決まり、車に積んでえいさえいさと運びこみ、燃やしてしもたちゅうことや。
 ま、大蛇より人間の智恵の方が大分上やったんやな。
 これ以来、御坊市塩屋町森岡の須佐神社では毎年、蛇を払う祭りをやってんや。

関連する神社 須佐神社



山姥のはなし



 あのな、山姥の話をしよかの。
 山姥て一体なんやろな。遠い昔のことやよって、よ〜う分からんけど、まぁ山奥に住んでる年老いた女の人らしいわ。
 いくつぐらいてか?
 そら知らんなぁ。山姥という字を見てみ。女へんに老いた・・と書くぐらいやよって、もう何百年も住んでるんとちゃうか。
 ま、妖怪の一種やろな。
 日高郡の奥の方に、中津村ちゅうところがあるけど、そこの村里離れた山奥にその山姥が住んでたんやと。
 その山姥はな、時には里へ下りてきて牛を喰いにくるんやと。そいで村人たちは、牛小屋へしつかりと錠をしたり、板を打ちつけたりして牛を守ったんで、山姥は困ったんや。
 そいで
 「餅でもええ、餅くれ、餅くれ、早ようくれ」
 と耳のわれるような声でおがりたてるんやしょ。
 そいで餅をついて食べさしたんやけど、そうそういつも山姥にサービスもしてられやんやろ。
 とうとうあの山姥をいわしてまおら…ちゅう相談がまとまったんや。
 どないしてやっつけるてか。まぁ聞きよしよ。
 あのな、カンカンに炭をいこして、その中へ白くて丸い右を探してきてな、ほりこんどいたんやして。
 そしたら間もなくドシンドシンと足音を響かせ
 「餅くれ、餅くれ」
 ておがりながら山姥が山を下りてきたんや。そいで
 「よっしや、よっしや、ちゃあんと餅はついたあるで。さぁつさたての餅をやんしょ。大きなロを開けよし・・」
 ちゅうたら、腹ペコペコの山姥はアーンと大きな口を開けたわな。
 そこヘアツアツに焼けたあの白くて丸い右をガーと放りこんだんやしょ。
 そらもうたまるかよう、山姥は
 「アジ、アジ、アジ…」  といいながら狂うたように飛び歩いて、とうとう死んでしもたんやと。
 村人たちは
 「ワァー、やったぞ、やったぞ!」
 と大喜びしたんやけど、山姥のたたりか、それからあと、なんば餅をついても、みな石に変わってしもたんやと。
 なんともおとろし話やの。

この村の神社 長子八幡神社 日高郡中津村小釜本388 祭神 譽田別命、比賣大神、息長帶姫命


参考文献
 和歌山県史 原始・古代 和歌山県
 日本の民話紀の国篇(荊木淳己)燃焼社

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