熊野古道中辺路、和歌山県の王子社
湯川王子

田辺市中辺路町湯川字王地谷20 chizumaru

湯川王子の説明板



 岩神峠から下って行く。人家はない。林信章の紀行文によれば、「木ふかき所を岨つたひに下れば、左右山せまり、樹草茂り合いたる幽谷なり。枝葉行く道をうち覆ひたれば、日かげもうすき道なれば、何ともなく心ぼそし。」とあり、現在も大きい変化のない道である。

 岩神峠に出没する山賊を退治した甲斐から流されてきた武田某は、その功で領地を賜った。土地の名をとって湯川氏を名乗った。湯川氏の子孫は近年まで広い山林を有し、豪族のような家風を保っていた。紀州の殿様の熊野詣をする時に泊まったのは湯川家であったと云う。 現在は廃村となり、墓だけが村を守っている。

 湯川王子に降りる道の先に蛇形地蔵堂がある。地蔵の後拝の石に蛇の姿が浮かび上がっているからと云う。 元々岩神峠にあったが明治二十二年の大水害で当地に移転したと云う。熊野往還の人々は岩神峠付近でダルに取り付かれたと云う。ダルは急に空腹を感じたり、呼吸が苦しくなったりする症状である。かの南方熊楠もダルにやられたと云う。その為に飯を少し持って歩き、空腹時に食べるとか、また飯がない場合には手のひらに米と云う字を書いて、なめると良いとされる。ダルは実在する。地元の警察の警告板にも「ダルに注意」とあると云うが、見ていない。実際は腐葉土から出た二酸化炭素が溜まっている場所を通る時に感じるとの見解もある。

 湯川王子社は明治四十二年に近野神社に合祀された。


蛇形地蔵堂


後拝


湯川王子社


湯川王子社


紀伊続風土記 巻之七十五 牟婁郡 四番荘 道湯川村

○若一王子神社
  村中にあり 社地に七抱の欅あり

 


熊野本宮手前の古道

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