万葉集巻第七紀の国

雑歌くさぐさのうた

山を詠める
1098 木道尓社 妹山在云 玉櫛上 二上山母 妹許曽有来
紀道きぢにこそ妹山ありといへ玉くしげ二上山も妹こそありけれ
紀州路には 妹山があらいしょ めんたがつこちゃる 櫛箱の蓋みてーに めーるやん ほいたら 二上山にも 妹山が あるんよ

覊旅[たび]にてよめる
1187 網引為 海子哉見 飽浦 清荒礒 見来吾
網引する海人とや見らむ飽浦あくのうらの清き荒磯を見に来し吾あれ
あがのこと 網ひいてる 漁師て おもてるやろか 飽の浦の きよい荒磯 見に来たんよいしょ あが
右ノ一首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。
 

覊旅[たび]にてよめる(藤原卿)
1192 白栲尓 丹保布信土之 山川尓 吾馬難 家戀良下
白たへににほふ真土の山川に吾が馬なづむ家恋ふらしも
しろおなった まっちゃやま 川もあらいしょ あがの馬よ よう行かんのよ うちでおもぉて くれてんねんやろか
紀ノ川沿い 

1193 勢能山尓 直向 妹之山 事聴屋毛 打橋渡
の山に直ただに向へる妹の山事許せやも打橋渡す
背の山に向こちょる妹の山ょ 背の山のゆうこときいたんやろ 打橋かかっちゃらいしょ
 

覊旅[たび]にてよめる(藤原卿)
 

1194 木國之 狭日鹿乃浦尓 出見者 海人之燎火 浪間従所見
紀の国の雑賀さひかの浦に出で見れば海人の燈火波の間ゆ見ゆ
紀ぃの国の雑賀の 浜にいてみたらょ 漁師らのいさり火 波のまにまに見えらいしょ
衣美須神社

1195 麻衣 著者夏樫 木國之 妹背之山二 麻蒔吾妹
麻衣あさころも着ければなつかし紀の国の妹背の山に麻蒔く我妹わぎも
麻のふく着たさけ おぉもい出さいしょ 紀ぃの妹背の山にょ 麻まいてた えねぼさん なつかしわいしょ
右ノ七首(紀の国関係は四首)ハ、藤原卿作メリ。年月審ラカナラズ。
 

覊旅[たび]にてよめる つるき
 

1199 藻苅舟 奥榜来良之 妹之嶋 形見之浦尓 鶴翔所見
藻刈舟もかりぶね沖榜ぎ来らし妹が島形見の浦に鶴たづ翔る見ゆ
藻ぉ採る舟が沖の方から漕いで来るんやろ 妹が島の形見の浦で 鶴とんれんの めぇらいしょ
 

覊旅にてよめる つるき
 

1202 自荒礒毛 益而思哉 玉之<裏> 離小嶋 夢所見
荒磯ありそゆもまして思へや玉之浦離さかる小島の夢にし見ゆる
きれいな荒磯より がいに すきやんしょ 玉の浦のょ 離れ小島 夢にでてくんのよ
玉津島神社

 

覊旅にてよめる
1208 妹尓戀 余越去者 勢能山之 妹尓不戀而 有之乏左
妹に恋ひ吾が越えゆけば勢の山の妹に恋ひずてあるが羨ともしさ
わえのかわいこちゃん こいしいなぁ 峠こえたら 背の山ょ 妹の山と いっしょにあらいしょ ええわいしょ

1209 人在者 母之最愛子曽 麻毛吉 木川邊之 妹与背山
人ならば母の愛子まなごそ麻裳あさもよし紀の川の辺の妹と背の山
人様やったら おかちゃんによ いっとう かえらし してもろたやろ 紀ぃの川の 妹と背の山やいしょ 

1210 吾妹子尓 吾戀行者 乏雲 並居鴨 妹与勢能山
我妹子わぎもこに吾が恋ひゆけば羨ともしくも並びをるかも妹と背の山
わえのかわいこちゃん こいしいなぁ 旅してたら けなるぃなぁ 妹と背の山 ならんでらいしょ 

1211 妹當 今曽吾行 目耳谷 吾耳見乞 事不問侶
妹があたり今ぞ吾が行く目のみだに吾あれに見せこそ言問はずとも
妹の山のはた 今 通おてるんよ わいのかわいこちゃん めぇへんかなー ものゆわんでも  

1212 足代過而 絲鹿乃山之 櫻花 不散在南 還来万代
阿提あて過ぎて糸鹿いとかの山の桜花散らずあらなむ還り来むまで
有田過ぎて 糸我の山へ 来たんよ ここの桜 散らんといてょ わえが 行ってくるまでょ
熊野古道、和歌山県の王子社、糸我王子と稲荷神社

1213 名草山 事西在来 吾戀 千重一重 名草目名國
名草山なぐさやま言にしありけり吾が恋ふる千重の一重も慰めなくに
名草山 て 名めーえだけやんか あが ほれて苦しんでるちゅうに いっこも なぐさめてくれへん
和歌山市内原内原神社 和歌山市冬野名草神社 和歌山市吉原中言神社

1214 安太部去 小為手乃山之 真木葉毛 久不見者 蘿生尓家里
安太あたへ行く推手をすての山の真木の葉も久しく見ねば蘿むしにけり
ありたー途中のをすて山のょ わかかったまきの葉っぱも 久しぶりに見たら 苔むしちゃらいしょ
熊野古道、和歌山県の王子社、糸我王子と稲荷神社

1215 玉津嶋 能見而伊座 青丹吉 平城有人之 待問者如何
玉津島たまづしまよく見ていませ青丹よし奈良なる人の待ち問はばいかに
玉津島 よぉ見といてよ 都の連中が 待ってて きいたら ちゃんと言えるよに たのんます
和歌山市和歌浦玉津島神社

1216 塩満者 如何将為跡香 方便海之 神我手渡 海部未通女等
潮満たばいかにせむとか海神わたつみの神が門渡る海未通女あまをとめども
潮みいて来たらどうするんよ あのおそろし海神の手のような所を いってしもて あのこら

1217 玉津嶋 見之善雲 吾無 京徃而 戀幕思者
玉津島見てしよけくも吾あれはなし都に行きて恋ひまく思へば
玉津島みたけど うかん気もすらいしょ そいやさか 都へいんでも ええなあちゅう気 ひきづらいしょ

1218 黒牛乃海 紅丹穂經 百礒城乃 大宮人四 朝入為良霜
黒牛の海紅にほふ百敷の大宮人し漁りすらしも
黒牛の海よー 赤に照ってらいしょ えれー大宮の人ら 漁してんのやろか
海南市黒江中言神社

1219 若浦尓 白浪立而 奥風 寒暮者 山跡之所念
若の浦に白波立ちて沖つ風寒き夕へは大和し思ほゆ
和歌浦に 白い波来てら 沖からさぶい風吹かいしょ そんな日暮れ 大和 こいしいわ
玉津島神社、衣美須神社

1220 為妹 玉乎拾跡 木國之 湯等乃三埼二 此日鞍四通
妹が為玉を拾ふと紀の国の由良の岬にこの日暮らしつ
家のあれにやろともて ええ石ころ ひろお 紀ぃの由良の崎で ひながおってしもた

1221 吾舟乃 梶者莫引 自山跡 戀来之心 未飽九二
が舟の楫をばな引き大和より恋ひ来し心いまだ飽かなくに
わいの乗ってる舟 いんだらあかん 大和から 見たいとおもてたんや まだたらんわして 

1222 玉津嶋 雖見不飽 何為而 L持将去 不見人之為
玉津島見れども飽かずいかにして包み持ちゆかむ見ぬ人の為
玉津島てな 見ててもたったせんわ こんなの どんなえつつんで いんじゃろか
玉津島神社

1226 神前 荒石毛不所見 浪立奴 従何處将行 与奇道者無荷
みわの崎荒磯ありそも見えず波立ちぬいづくゆ行かむ避道よきぢは無しに
みわの崎のよ 荒磯もめーんぐらい 波きついわしょ どこいこか まあられへんで

1228 風早之 三穂乃浦廻乎 榜舟之 船人動 浪立良下
風早かざはやの三穂の浦廻を榜ぐ船の舟人騒く波立つらしも
風早の三穂の浦でよ 舟こいでらいしょ 舟人ら なんややんだになおしてるで 波たって来たんやろか
 

覊旅にてよめる つづき
1247 大穴道 少御神 作 妹勢能山 見吉
大穴牟遅おほなむぢ少御神すくなみかみの作らしし妹背の山は見らくしよしも
大穴牟遅神さんと 少彦名神さんの つくったちゅう 妹背の山 見たら ほんま 立派やいしょ
右ノ四首(紀の国関係は一首)ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。
 

譬喩歌たとへうた

木に寄す
1304 天雲 棚引山 隠在 吾下心 木葉知
天雲の棚引く山の隠こもりたる我が下心木の葉知りけむ
天雲に おおわれちゃる 山みたいに わいの ほんねよ 知らんやろ 木の葉ぁ 知っとるかい

1305 雖見不飽 人國山 木葉 己心 名著念
見れど飽かぬ人国山の木の葉をば我が心からなつかしみ思もふ
見てても たったせーへんわ 人国山の木の葉ぁ わいは ほんま なつかしいわいしょ
右ノ二首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。

草に寄す
1343 事痛者 左右将為乎 石代之 野邊之下草 吾之苅而者 [一云 紅之 寫心哉 於妹不相将有]
言痛こちたくばかもかもせむを磐代の野辺の下草吾あれし刈りてば
わりぃ噂 たっても なんとかならいしょ 磐代の野辺の下草(のような娘) わいがとってまっても

草に寄す つるき
1345 常不 人國山乃 秋津野乃 垣津幡鴛 夢見鴨
常知らぬ人国山の秋津野のかきつはたをし夢いめに見しかも
人生無常やのう 人国山の秋津野のカキツバタみたいに目にしみるあの娘 夢に見らいしょ

雲に寄す
1368 石倉之 小野従秋津尓 發渡 雲西裳在哉 時乎思将待
岩倉の小野よ秋津に立ち渡る雲にしもあれや時をし待たむ
岩倉の小野から 秋津へんに 雲わいちゃいしょ そんなえ 待ってるんかえ 

海に寄す
1389 礒之浦尓 来依白浪 反乍 過不勝者 誰尓絶多倍
磯の浦に来寄る白波返りつつ過ぎかてなくば岸にたゆたへ
磯ノ浦による白波みたいに 引いては寄ってくらいしょ 誰ゆえのためらいやろか


浦沙[まなご]に寄す
1392 紫之 名高浦之 愛子地 袖耳觸而 不寐香将成
紫の名高の浦の真砂土まなごつち袖のみ触りて寝ずかなりなむ
名高の浦の真砂土やったら しゃあないけど あのかえらしこ すれちごても Hできへんの
海南市 中言神社

藻に寄す 1394,1397 も紀州の海岸を思わせるが・・・
1395 
沖つ波寄する荒磯の名告藻なのりその心のうちに靡きあひにけり
沖の波がよいてくる 荒磯の 名ゆうたらあかんホンダワラ わいの心のなかで病やいしょ
海南市 中言神社

1396 紫之 名高浦乃 名告藻之 於礒将靡 時待吾乎
紫の名高の浦の名告藻の磯に靡かむ時待つ吾あれ
名高の浦のホンダワラ 磯になびいてらいしょ そいたら わいも 待ってよ
海南市 中言神社

万葉集巻第九紀の国

万葉集紀の国

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