中世の歌謡の宴曲−熊野詣−
　千早破天[ちはやぶるあめ]より下る神なれば、御影を垂れてここに住む。池田と和泉の堺の里、 里をもさこそ守らめ。急雨[しぐれ]の霧もしのに散る。篠の松原千草の森。信田の杜もしげりあふ、小木の若葉の若緑、 雲居をわたる鶴が原、大山重平松、みゆる渡瀬はしるき浅小河、 流の末ははるばると、海に出たる水の浦、興津浜辺のさ夜千鳥、吹井[ふけい]（注：深日の意）の浦の浪の音、高しの浜（注：高師浜）安濃木が浦に、塩木積なる海人[あま]の住み、 磯間のみるめぞゆかしき。日根の松原や是ならん。梢にかかる天雲に、有と星[蟻通]をばえもしらぬ、樫の井 冬戸駒並べて、駅[うまや]にしばしやすらはん。長岡信達も過ぎぬれば、彼方是方[かなたこなた]の嶺つづき、雲のいくへぞよそに見し、 葛城山の山中 山口に来にけらし。

参考　歴史の中の和泉（戸田芳美氏）和泉書院